東京高等裁判所 昭和27年(う)447号 判決
検察官控訴趣意中原判決は法令の解釈適用を誤つたものであるとの点について。
按ずるに刑法第二三〇条が公然事実を摘示して人の名誉を毀損したときは、その摘示された事実の真偽を問わず、名誉毀損罪を構成するものとしたのは、個人の重要な権益の一つである名誉を厚く保護する立場をとつているのであり、同法第二三〇条の二がこと公共の利害に関する事実に係り、その目的が専ら公益を図るに出たものと認められるときは、事実の真否を判断してそれが真実であることの証明があつたときは罰せずと規定したのは、摘示事実の真実性の証明は所論のように一種の消極的処罰条件を定めたもので、事実の真実性は犯意の外にあり、犯罪の成立には関係がないようにも一見読めないこともないけれども、元来右第二三〇条の二制定の趣旨は言論の自由の保障と人の名誉権の保護との矛盾牴触する点を解決するため事実の真実性の証明を許したものと解せられるので、その証明のあつたときは、真実の事実を発表することによつて、その結果たとえ人の名誉が毀損されても止むを得ない即ち違法とはならないということで、人に一定条件(公共の利害に関し、公益を図る目的のあること)の下における真実発表の権利を認めたものと解するのを相当とするから、事実の真否は単に消極的処罰条件にとどまらず、行為の違法性そのものを左右し犯罪の成否に関係するものと解するのを相当とする。従つて事実の真実性に関する認識は当然犯意の内容をなすものであつて、摘示事実を正当に真実であると信じたものならば犯意を阻却するものといわなければならないから、摘示者が事実の真実性を十分証明することができない場合でも、その事実を真実であると信じ且つ通常人の常識をもつてすれば、そのように信ずることが相当と認められる程度の客観的情況のあつた場合にはなお犯意を阻却するものとするのを相当と認める。
而して原判決は右法条をこの趣旨に解釈したものであることは判文自体によつて明白であるから、原判決には所論のような法令の適用の誤は認められない。
論旨は理由がない。